専門図書館協議会1998.6/5 Knowledge Management     (校了H10.4/10)

特許情報サービスの近未来

  ---押せば出る,特許情報ハイブリッドサービス---

はじめに

 特許公報がCD-ROMで特許庁から安価に発行され,サービス各社も活発になり,社内データベースシステムも数社から販売され,インターネットにおいてきわめて安価な特許情報データベースが出現している。

 一方,社内LAN・WANなどにより研究者・設計者のパソコンと社内外のサーバは結合され,一部のユーザは自ら特許情報データベースを利用し始めている。

 このように様変わりした情報環境と利用の現状を前に,情報サービス関係者は今後何をおこなっていけばいいのか,手探りの状態にあるといえよう。

 その解決策の一つとして,単なる特許資料やデータベースの提供ではなく,技術者全員の特許情報利用環境の飛躍的な改善を目指して,「特許情報ナレッジマネジメント」という新たな切り口で眺めてみたい。これにより,バラバラに見えていた諸活動が一元的なシステムとして把握され,今後の活動目標の設定に役立つ視点が得られるように思える。

 例えば,情報活動の充実のためには,システム開発やコンテンツの充実に加えて,ユーザにおいてそれを使いこなすための活動が必須であり,このダブルサポート体制があってこそ今後の情報化は進展しうるとの理解がえられる。

 つまり,最近,エンドユーザが利用できる情報入手の手段は実に豊富になったが,本当にほしいものがどこにあるか分かり易くなったとは必ずしもいえない。そこで,望まれるものとして;
 ほしい内容を予約しておくことにより2,3回ボタンを押すだけで最新の関連情報を簡単に入手できる,一方,テンポラリな必要に応じて何時でも何処でも誰でもどんな分野でも(特許)情報検索が簡単に実行可能,その原報も数秒で入手可能,次頁めくり・次文書めくりは1秒以下で可能,またそれらのやり方や補助資料も分かりやすく提供される・・・夢のような環境と思えるかもしれない。

 しかし,それがいま求められているのではないだろうか。そしてまた,現在の技術を駆使すれば,それはある程度,実現可能なものである。

1.特許情報の紹介

(1)特許庁からの発行件数





 


(2)利用形態
 a.SDI・・・抄録や明細書の研究・設計者への定期的な配布・回覧
 b.遡及調査・・・過去分の調査・検索
 c.その他;番号指定の公報入手,審査経過問い合わせなど


2.特許情報ビッグバン

2.1 H5年;公開公報,約35万件/年の全電子化
 ミクストモード;文書はテキストデータ(SGML)
         図面はイメージ(ファクスモード)
 紙;約100m/年 →CD-ROM公報,約80枚/年

(1)原報(公報,または明細書)の紙へのコピーの半自動化,鮮明画像

(2)サーバ蓄積,利用体制
 H5年 技術開発,経済的可能性検討      H7  改良システム
 H6  原型システム             H8  実用システム

2.2 H10.4月 特許情報ビッグバン
(1)価格低下 1/4〜1/16
 実質的に著作権フリー
 誰でも作れる特許情報データベース
 システム,コンテンツ,サービスのインフラ化



3.特許情報メガコンペティション

(1)インターネットでの日本特許情報
 JAPIO;分散検索システム, 野村総研;サイバーパテントデスク, グリーンネット, 日本発明資料

(2)インターネットでの外国特許情報
 Patent Explorer,  QPAT, MicroPatent,  CNIDR,  SPO,  STO, IMB PatentDB

(3)特許情報活用案内ホーム頁
 臼井事務所・・・http://www.bekkoame.or.jp/~y_usui/usui1.htm
 PatentCity・・・http://www.jsdi.or.jp/~mug/indexj.html
 NGB・・・http://www.ngb.co.jp/ngbj.htm

(4)社内DBシステムの販売
 新日本製鐵, 日立製作所, 富士通, 松下電器産業, 東芝, キヤノン, 他,数社あり

(5)社内システムと社外システムの競争
・サービス内容の違い・・・機密保持
・付加価値のあるサービス開発の必要性
  基本;文字列に本質的な価値はない → TPOにより「情報」になる
     情報の価値は,ニーズへの適合により生まれる
・米国特許;豊富な社外システムの競争により,コストパフォーマンスは限界まで改良されている。
 よって,社内システムはいっそう維持が困難か。



4.社内データベースの実例

(1)社外システム以上の価値がなければ存在意義なし→価値あるサービスの開発
(2)何を目標にすべきか?
 検索は基本機能だが,サービスとしても基本か?
 数年分の蓄積では,遡及調査・検索には役立たない。
 うまい検索式は難しい →うまい結果が得られない →“使い難いシステム”
 頻繁に使わせるにはどうするか?
  →慣れさせるにはどうするか?
 費用回収できるか
 現在のSDIの改良の必要性;発行から4ヶ月かかって届く,選択不良で漏れノイズ多い,その他

(3)SDIを目標に
 @迅速;発行後1,2週間で見られる。(隔週に送信)
 A任意;見たい時に見られる。(8時〜23時,休日も稼働)
 B厳選;必要なものに絞って,また細分して受取れる。
 C広範;関連特許も区別して受取れる。
 D熟練;検索式は熟練したサーチャが作成。
 E簡単;メールで送付され,クリック3回で抄録を見られる。
 F高速;次文書表示は0.7秒。(Pentium120MHz)
 G詳細;抄録だけでなく,明細書も簡単・即座に入手可能。
 H豊富;プリント形式は,数十種類のフォーマットあり。

(4)もちろん遡及検索も
 @全社の机上のパソコンで検索できる。
 A明細書全文の検索により,漏れの少ない検索が可能。
 B近傍検索などにより,ノイズの少ない検索が可能。

(5)原報(公開公報)入手も
 @番号指定や抄録表示に引き続いて,明細書が見れる。
 A表示は数秒,プリントは数分。





5.特許情報管理から特許情報ナレッジマネジメントへ


◆情報サービスのあり方の変化
・資料や手段の独占の時代は終わった。
・単純な検索システムの提供ではなく,使い方を含めたサービスが必要。
・付加価値あるサービス;検索,出力,分析
・エンドユーザを頼らせるサービス
 頼り甲斐のあるシステム,サービス
 サーチャ;課題のまとめ,検索ノウハウ
・エンドユーザのやれない上手な検索


 1970年 日本;公告特許・実用新案の明細書と年間索引
     外国;USガゼット(米国特許抄録),明細書はマイクロフィルム
 1998年
 日本;登録特許,公開特許・実用新案,公表公報,再公表公報,(実用新案登録,公開技報)
  上記のCD-ROM公報,(抄録)検索システムPATOLIS;JAPIO,日経・ニフティ経由など
  全文検索システム;JAPIO・分散システム,野村・サイバーパテントデスク,グリーンネット
           └ISDN経由,インターネット経由
  社内システム(SGPAT)・・・専用通信方式,イントラネット(Web)方式
  公報データ販売;MT,光ディスク,通信販売
  審査経過のデータ販売;MT,他
  抄録;JAPIO抄録,ニッパツ,その他
  年間索引,索引CD-ROM,要約CD-ROM
 外国;米国をはじめとして,(抄録)商用検索システム,明細書CD-ROM,
  全文検索システムが,パソコン通信やインターネットでサービスされている。詳細は省略。




将来へのヒント

・HDD容量の増大
・衛星携帯電話・通信の発展
・インターネットの発展
 「どこでもドア」と「グローバル・ブレーン」
 社外データベースの有効活用
・検索の一般化
 検索=情報活用手段
・概念検索
・ユーザが作る新しいデータベース
・サービス提供側もユーザになろう


おわりに

・混沌はチャンス
・あばれ馬の手綱をしっかりつかむ
 変化を先取り,有利に誘導
 いいサービスでユーザを頼らせる
 資料・手段の独占に将来はない
・情報活用のポイントはニーズへのマッチング
・ナレッジマネージメントで将来を見通す